この記事では、発音指導をどうすればいいのかわからない、発音指導が苦手という英語教師に向けて、私がTESOLで学習した方法を紹介しています。

発音指導で気を付けるべきこと

ゴールをどこにするのか

発音指導で気を付けるべきところではまず、どこをゴールにするのかを考えなければなりません。

ネイティブのような発音を目指すのか、それとも伝わる発音を目指すのか。

ネイティブのような発音は確かに憧れますし、かっこいいと感じますが、私は全員がその発音を目指す必要はないと思っています。(個人として目指すのは自由ですが、教員が全員にそのレベルの発音を求めるのは違うかな、という意味です。)

それでは、伝わる発音とは何か。そこには大事な考えが2つあります。それが、

明瞭性(Intelligibility)理解のしやすさ(Comprehensibility)です。

明瞭性(Intelligibility)とは話し相手に対する通じやすさを指します。

ここでポイントなのは話し相手が誰か、によって通じやすさは変わる、ということです。

例えば、日本人同士が英語で話す場合、音のつながりや話すスピードなどよりも単語を正しく発音したり、丁寧に発音したりする方が明瞭性は高くなるかもしれません。

逆にネイティブスピーカーに話す場合、1つ1つの単語を丁寧に発音するより、イントネーションであったり音の連続性を意識した方が伝わる可能性が高いということです。

英語指導においては、国際共通語としての英語という点を意識して、より多くの人に通じる英語発音を身に着ける指導をすべき、という考え方があります。

そして、理解のしやすさ(Comprehensibility)とは、英語を母国語としない人が発音する英語が、ネイティブスピーカーや非母語話者にとって、どの程度理解されやすいか、という聞き取り側の視点に立った考え方です。

そして、この2つの視点から、どの程度の発音を目指すのかを考えるといいと思います。

どこまで時間が割けるのか

授業50分のうち、どれだけ発音について時間が割けるのか、も考慮に入れる必要があります。

最近の英語教育はこれを教えなさい、あれを教えなさい、もっとコミュニカティブな活動を入れなさい、もっとたくさんの単語や文法事項を教えなさい、など要求は増える一方ですよね。

そんな中、どこまで発音に重きを置いて指導すべきなのか、悩むかと思います。

その指導に需要はあるのか

発音を学ぶと何がいいのか、それを自信をもって伝えることができますか。

生徒の中には英語の発音なんてどうでもいい。ただ単語や文法を知っていれば受験は乗り越えられる。

そう考えている子たちが一定数います。

そんな子たちからしたら授業内で発音について時間が割かれると癪なわけです。

やる気を削がれ、授業に集中できなくなり、やがて授業中に自分で用意した問題集を解くようになります。

発音を独学で学ぶのは文法を学ぶより難しいです。

その子たちは大事な機会を自ら捨てていくことになります。

しかし、仕方ありません。なぜならその子たちにとって発音を学ぶことは必要性が限りなく低いからです。

発音指導する前には必ず、発音を学ぶメリットを伝えましょう。

そうすれば受験でしか英語を使わないと思っている生徒たちも顔を上げて活動に参加するようになります。

では、発音を学ぶメリットとはなんでしょうか。以下に例を挙げます。

  • リーディングの読むスピードが上がる
  • リスニング力が向上する
  • TOEFLやIELTSなどの試験でも大事

英語は音と音のつながりや、強弱によってリズムよく発音されます。

1つ1つの単語を丁寧に発音するのとそうでないのとでは、話すスピードが変わってきます。

自治はこれ、話すスピードだけではなく、読むスピードにもかかわってきます。

人はモノを読む際に頭の中でその文を読み上げています。

その際に、1つ1つ読み上げるのか、リズムよく読み進めるのかでは、スピードに差が生まれます。

もちろん、読んだスピードが速い=リーディングの理解度が速いにはなりませんが、発音が上達することで読むスピードがあがる効果はあると思います。

次に、巷でよく言われているのが「自分が発音できない音は聞き取れない」という説です。

これがすべてではないと思いますが、英語のリズムやどこにストレスがおかれているかなどによって理解力が上がるというのは間違いないです。

最後に、TOEFLやIELTSなどはスピーキングの評価基準を公開していますが、その中の項目の中でfluencyというものがあります。

これは話す際の流暢さを見ているわけです。

以上のことから、発音が上達すると受験英語にだけ重点を置いてる生徒にとっても十分なメリットがあることがわかります。

では、次に具体的な発音指導法についてみていきましょう。

具体的な発音指導例

英語の発音指導は、segmentals(母音や子音について)とsuprasegmentals(ストレス、イントネーション、リズムについて)に分かれます。

母音・子音の発音指導

子音指導

指導上の留意点

英語の子音を図で表すと以下の通りです。

・母音に比べ音と音の違いがはっきりしています。

・音と文字はかならずしも一致しません。

・発音する際に、有声か無声か、どこで音を出すか、どのように空気を出すか、という点で発音が区別されます。

日本語は全て母音で音が終わるのに対して、英語は子音で音が終わることが多いです。

指導一覧
  • フォニックス(ジョリーフォニックスがおすすめ)
  • ミニマルペア
  • 口や顔の動きがわかる画像で示す

母音指導

指導上の留意点

・母音の音の違いは、子音の違いよりも表現しづらいといわれています。

単語の発音はどこの国(地域)からきているのかによって違います。

・母音は単語でもっとも強く発音されるストレスになる部分です。

・母音とはa,i,u,e,oのことを指します。

・日本語の母音の音はこの5つであるのに対して、英語は約13通りの発音があります。

・英語では、母音を短く発音したり、長く発音したり、組み合わせたりして多くの音を区別しています。

指導一覧
  • フォニックス(ジョリーフォニックスがおすすめ)
  • ミニマルペア
  • Color-Coded Vowels 
  • Listening discrimination
  • Pronunciation Bingo
  • Haptic

母音・子音の発音指導まとめ

母音指導に関しても、子音指導に関しても、英語教師の目指すべきは”伝わる英語”です。

単語の発音はそれぞれの国や地域によって異なり、どれをモデルにするかによって変わってきます。

モデルを置くことはいいことですが、その発音が正しい発音、と伝えるのには少し注意が必要です。

何を重点的に教えるべきか、についてはJudy B. GilbertやJennifer Jenkinsが有名なので調べてみてください。

suprasegmentals(イントネーションやリダクションなど)の発音指導

ここでは、ストレス(単語のストレス、文の中のストレス)、リズム、イントネーション、リンキング、リダクションについて取り扱います。

強勢stress

word stress
  • 英単語は音節(syllable)で分けられる
  • 音節には強めに発音したり、長めに発音したりする箇所がある。それが強勢(stress)である。
指導一覧
  • 新出単語として出てきた場合、stressがどこにあるのか伝える
  • stressがかかる部分に〇を書いたりしてビジュアルで知らせる。
  • 輪ゴムを親指にかけ、stressがかかるところで横に引っ張る(Gilbert, 2008)
prominence and sentence stress
  • 英語には英単語ごとのstress以外にも、センテンスの中で一番強く読まれる英単語(Prominence)というのがある
  • Prominenceは1つの意味のまとまり(thought group)の中にかならず1つある
  • Prominenceをどこに置くか、は相手に何を伝えたいか、によって変わる
  • thought groupの中にはprominenceよりは弱く読まれるが若干強めに発音される単語がある場合がある。それをsentence stressという。

リズム

  • 英語のセンテンスはcontent wordとfunction wordで構成されている
  • Prominenceとsentence stress、content wordとfunction wordを意識して読ませると、自然とリズムが作られる
指導一覧
  • content wordとfunction wordについて説明し、例文を読ませる
  • そのなかでさらにprominenceを意識させ、伝わる意味が変わることを感じさせる
  • content wordやprominenceの際に手をたたくなどして、体で表現する
  • ボクシングのように、function wordは体を動かさず、content wordの時はジャブ、prominenceの時はストレートを打つ

イントネーション

  • イントネーションとは、話しているとき声が上がったり、下がったりする声のピッチである
  • 高いピッチでは興奮、驚きなど、中間だとビジネスライクな感じ、自信のある印象、そして低いピッチだと落ち着きや強さ、ロマンチックな印象を与える
指導一覧
  • 文法事項とつなげる(疑問文は語尾をあげる、など)
  • 音の上がりや下がりをリスニングをしながら書かせる
  • 色々ないい方で同じ単語を言わせてみる
  • 手や全身を使ってピッチの動きを表現させる

リンキングandリダクション

指導一覧
  • 教科書の音読(教員用の教科書にはリンキングやリダクションが起こる部分に印がある)
  • シャドーイング(Shadowing)
  • 洋画のアフレコ(実際にやってみましたが主体的に取り組んでくれます。)
  • 自分の声をレコードさせて発音を分析させる

まとめ

重要なのは、どこにゴールを置くか、です。

我々日本の教員は忙しく、授業で教えなければならない項目もたくさんあるなかで、発音指導までしっかりする、となると不安に感じる先生も多いかもしれません。

やれる範囲でやる、というのが大事だと思います。

時間が限られている中で、各指導の特にどの部分を優先的に教えればいいのか迷ったら、こちらの論文を参考にすることをお勧めします。

ミニマルペアをやることだけが発音指導ではありません。教科書を無意味に何度も読ませるのが発音指導でもありません。

相手に伝わる発音をいかに身に着けさせるのか、それを考えながら指導するというのが、今の英語教育の考え方みたいですね。